東京高等裁判所 昭和33年(う)2016号 判決
被告人 榎本辰雄
〔抄 録〕
原判決が被告人に対し罰金一万円の刑を科し、右罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する旨の言渡をしたことは原判決主文に照し明らかなところである。所論は、右一日金二百円の割合による労役場留置期間の算定は被告人を一日間強制的に労役せしめてもその労働対価は二百円であるというに帰し、東京地方における労務者の一日の最低賃金の三分の二程度の金額をもつてするものであり、これは被告人を一人前の人間として取り扱わないことであり、被告人の人格を侮辱するものに外ならないから、右は憲法第十一条、第十三条に違反する違法がある、というにある。しかしながら、刑事訴訟法第五百五条の規定に徴すれば罰金刑の言渡を受けた者が罰金を完納することができない場合における労役場留置は、刑の執行に準ずべきものであるから、留置一日に相応する金銭的換算率は必ずしも自由な社会における勤労の報酬と同率に決定されるべきものではない。(最高裁判所昭和二三年(れ)第一四二六号、同二四年一〇月五日大法廷判決、刑集三巻一〇号一六四六頁参照)なお、刑事訴訟法第四百九十五条第三項及び罰金等臨時措置法第七条第四項の規定によれば、現行刑事訴訟法は本刑に算入すべき未決勾留の一日を金額の二百円に見積ることにとどめており、また、刑事補償法第一条第三項及び第四条の規定によれば、刑事訴訟法第五百五条により刑の執行に準ずべきものとされる労役場留置の執行についてもこれを刑事補償の対象たる刑の執行又は拘置とみなされ、これに対する補償においては、その日数に応じて一日二百円以上四百円以下の割合による額の補償金を交付する旨を定めていることに徴すれば、本件において、原判決が被告人に対し罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する旨の言渡をしたことは、決して被告人の人格を侮辱したものということはできない。また、もとより被告人の基本的人権の享有を妨げるものでもない。すなわち、原判決には所論憲法の条規に違反した点は存しないから、論旨は理由がない。
(坂井 山本長 荒川)